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株式会社メルカリを退職します

Published at 2023-06-30

2018年3月にジョインして5年4ヶ月が経った。メルカリとの出会いを思い返すと、随分と前から長らく声を掛けていただき、タイミングの折り合いがつかなかったこともありったが、こうして自分のキャリアの中でメルカリを経験できたのは石黒さんのおかげに他ならない。

const diff = new Date('2023/6/30') - new Date('2018/3/1');
const days = diff / (1000 * 60 * 60 * 24);
console.log(`${days} days`);
// => 1947 days

メルペイは2017年11月に会社化されて間もなく、入社時点では決済関連の機能もリリースされていなかった。しかし、既に C2C のマーケットプレイスとして成功していたメルカリが次は決済分野に乗り込むということで業界の注目を集めており、ひと月に何十人も入社するというある種の異常事態だった。

2018年7月からは、メルカリで先んじて導入されていた EM/PM/TL 体制がメルペイにも導入され組織として整備されていく中で、メルペイの Frontend チーム の立ち上げに、本格的に取り組んでいくことになる。兎にも角にも人が要るということで採用活動に奔走する中でメルペイの開発は進んでいき、2019年2月に最初のリリースに漕ぎ着けることができた。リリースに至るまでに語りきれない程多くのドラマがあったが、いちソフトウェアエンジニアとしてはメルペイのクーポン機能などの開発に関わっていた。良いチームでゼロイチの開発に取り組めたことはとても幸運で、リリース時にはメンバー皆でおにぎりが11円で購入できる様子を見守ったことを思い出す。

決済事業という点では、最初に iD による非接触決済がリリースされたことで iD が導入されている多くの店舗で利用できる状態からスタートした。通貨が通貨たるために価値として交換できることは非常に重要で、メルペイと提携している銀行やメルペイを利用できる加盟店の存在があってこそであり、それをリリース前から開拓し続けてきた Business Development チームや Sales チームの力は凄まじい。

2019年末に中国の武漢で発生した新型コロナウイルスは世界を震撼させた。日本でも感染が拡大するまでに時間はさしてかからず、人々の生活を強制的に変化させると共に、経済にも大きな打撃を与えた。多くの犠牲者を出した点に於いてこの事象を肯定する余地はないが、日本におけるデジタル化を大きく前進させたことも事実である。恐らく、新型コロナウイルスの存在がなければ日本のデジタル化はもう数年かかっていただろう。それはリモートワークの導入といったわかりやすい部分だけでなく、FAX によるやり取りや印鑑による承認フローといった、古くから続いてきた様々な非合理的なプロセスへ一石を投じた。ホワイトカラーの多くは出社せずとも仕事が成立することが証明され、企業も都心に限定せず労働力を確保する動きにシフトしている。限界集落や少子化といった問題へ働きかけてくれるかどうかはさておき、東京と地方との間で発生している経済格差を長い時間をかけて埋めてくれる可能性はある。そしてリモートワークが一般化した以上に、情報流通の改革をもたらしたインターネットが変革できていなかった部分に届きつつある感覚を覚える。

ほぼ同時期に立ち上がったのがメルカリ Web の刷新プロジェクトだった。もともと進んでいたリアーキテクチャプロジェクトをメルカリ経営として仕切り直し、そのリードを担当することになった。ここからメルカリの組織マネジメントも兼務することになり、結果的にはおよそ1年半でほぼすべてをリプレイスできた。

私が本格的に英語を勉強し始めたのが恐らくこのタイミングで、メルペイ Frontend として英語話者をメンバーとして受け入れることになったこと、メルカリ Frontend の英語話者のメンバーを担当することになったこと、この2つが大きな要因である。また、日本でも D&I への注目が高まっていく中でメルカリグループでも包括的な組織作りを掲げており、メルペイのエンジニアリング組織に対しても英語のインストールを徐々に推進してきた。「英語で対話できるようになること」と「包括的な組織」はイコールではないが、より多くの優秀な人材を採用したい中で日本市場だけでは既に人材が枯渇しつつあり1、また多様な人材を採用していける組織に向けて変化していくためにも自然とも言える。一方で、目下の業務に於いて、特に日本国内特有のドメインとも言える貸金や与信の領域は敢えて英語を使わなくても良いのも事実だ。グループ内において多言語をどのように捉えて組織に取り入れていく、これからも向き合うトピックの1つかもしれない。

メルカリ Web を刷新して後を託しつつ、メルペイでは iOS, Android, そして Web を含むクライアントサイドのエンジニアリングを担当することになってからは、Codecov への不正アクセスを起点としたセキュリティインシデントや、メルカリ Web の次はメルカリアプリのコードベース刷新といったタフなプロジェクトを経験してきた。これらのソフトウェア投資は、メルカリがこれからの数年を戦う上で重要な資産になると信じている。

2021年10月にはメルコインの発足と暗号資産事業に取り組むことが発表され、続く12月にはパ・リーグと提携した NFT 事業への参入も発表された。モノと通貨という価値交換に暗号通貨が加わることで経済上の摩擦が減ることは、将来的に日本以外のマーケットプレイスを取り込んでいくことにもつながっていくだろう。

2022年の春からメルペイの経営会議体に参加し、7月からはエンジニアリング担当の VP としてプロダクト開発に取り組んできた。金融・与信事業特有の複雑難解さや経営として事業を成長させる責任を踏まえた上で、Tech Company としてよりよいプロダクト開発に向けた歩みを少しずつ進めてきた。実現に向けては、座組の話だけではなく組織のマインドセットを前に進めるため、一緒に働いてきた VP や EM を中心に議論を繰り返してきた。メルペイ事業としては、メルペイスマートマネーやメルカードといった今後のメルカリを担う機能も揃い、よりドメインフォーカス毎の自律的な事業推進が始まっている。特にメルカードは、メルペイ残高を利用するための単なるインタフェースではなく、メルカリ内の経済活動を強力に推進する重要な機能だ。

挙げてきたような様々な機会に恵まれた以上に、優秀な同僚と働くことができたことを強調すべきだろう。振り返ってみても「誰と働くか」は重要な要素で、5年余りという長い期間私のモチベーションを支えてきた。とりわけメルカリグループの経営陣の存在は自分の中に強い印象を残しており、こうした人達と働く貴重な機会を失うことについては最後まで悩んでいたし、特に @naoki さん、@sowawa さん、@mark さんの存在は鮮烈だった。

同時に、恵まれた環境に居続けてしまうことの焦りも大きく、徐々に不惑が迫っている中で、限られた労働人生で異なる変数環境下での経験を積みたい想いも重なり、新たなチャレンジを決意するに至った。退職に際しては、メルカリを離れることの寂しさをはじめ様々な想いが錯綜していた。しかし、これからもメルカリのイチファンであり続けることは変わらないし、今日も一日日銭を稼ぐべく出品して価値の循環を感じている。

数年前だが、@uskay さんのブログ記事に IBM での7年間が綴られており、とても近しい感覚を覚えた記憶がある。コンピュータサイエンスを修めていない私が、エンジニアリングの道をなんとか歩んで来れているのは、日本の雇用文化に助けられた部分が大きい。一方で、今回大きくなってきた焦りは、まさにこうした「限定されたひとつの環境に居続けること」から生み出されている。終身雇用の時代は既に終わって、副業や複業が一般化してきた先には、「週5正社員」という働き方の意味が薄まっていく未来も有り得るだろう2。優秀な人材の流動性を確保して、大中小企業の新陳代謝が進んだ先に、日本に必要な産業構造改革がある。これを雇用に関する規制が根強い日本において、自分がどう向き合うか、願わくばどう変化させていくかはテーマのひとつになるかもしれない。


  1. 単なる個人の感想で、具体的な数字やメルカリでの採用状況を示唆するものではない。 ↩︎

  2. シェアリングエコノミーの考え方にも通ずる部分がある。 ↩︎

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