EagleLand

2022.12.23

演繹的なエンジニアリングキャリアの形成

技術顧問として関わっている企業にて「エンジニアのキャリア形成について LT して欲しい」というリクエストを頂き、自分のキャリアについて振り返る機会は今までなかったなと思いながら振り返った。

キャリア初期(SIer への新卒入社、事業会社へ転職、対外活動)

新卒で SIer にジョインしたところからエンジニアとしてのキャリアは始まった。もともと強い学習動機がなく入学した理学部だったため早々に研究の道に進まないことを決めたので、中学生の頃から触れていたインターネットを出発点に「手に職が付けれて、自分の想像力次第でプロダクトを生み出せる」という、まずまず単純な理由でエンジニアリングを志した。

受託開発が主な事業内容で、いわゆるデスマーチも味わった中で、より良いエンジニアリングを目指して事業会社への転職を決意する。当時、1年間で100個の Web サービスを立ち上げることを掲げて大量にエンジニアを採用していたサイバーエージェントに運良く拾って頂き、そこから Web 技術に没頭する日々を送ることになる。面接で出会った @cssradar 氏に師事しながら、Frontrend という Web Frontend 技術者向けのイベントに登壇することになり、そこからブログや書籍の執筆、イベントでの登壇といった対外活動に勤しむようになる。

キャリア中期(個人から組織への視野転換、労働に対する志向性)

そうこうするうちに、メディア部門での事業開発からゲーム部門の横断組織への異動が決まり、いわゆる横軸活動に取り組むようになる。業務性質上、自分のアウトプットの量や質を高めるところから他者のそれにフォーカスすることになる。思い返せば、関心が個人から組織にシフトし始めたのはこのタイミングが原点だったように思う。

事業部の大再編などを経てアメブロの事業部に異動することになり、この辺りからエンジニアの評価業務などに関わり始めるようになる(当時はいわゆるマネージャという役割が存在せず、上位グレードのエンジニアが評価者になっていた)。当時強い関心を持って取り組んでいた Web パフォーマンスについて、半ば勝手にプロジェクト化してアメブロでも取り組んでいたら幸いにも評価され、事業部の最優秀エンジニア賞を受賞することもあった。

その後横断組織を立ち上げて、採用・評価・育成といったマネジメントに取り組むようになり、よりエンジニアリング組織という部分にフォーカスしていくことになる。

キャリア後期(チーム、部門、そして会社のマネジメント)

メディアやゲームの事業開発、横断組織での横軸活動、Web エンジニアリングの強化を志した組織の立ち上げや人事業務などを含め様々なことをやってきた中で、より自分ごと化できる事業領域を志すようになる。世の中に対して自分なりに感じる社会課題の中に当時勃興し始めていたキャッシュレス領域があり、既に C2C マーケットプレイスとして成功を収めていたメルカリがそこに取り組んでいくという話を伺い、またとない機会だと考えて転職を決意する。

メルペイは会社が設立されて間もないタイミングでまだ組織らしい組織になっていない状態だったので、私への期待値もチームの組成だった。そこでメルペイの Frontend チームの立ち上げをしたり、ある程度落ち着いてくると Web 版メルカリの刷新プロジェクトアプリ版メルカリの刷新プロジェクトなどを任されるなど、様々な大波を経験してきた。

キャリアの変革点はどこにあったか

もちろんキャリアは人それぞれで一般化を試みるものではないが、自分のキャリアにおいて大きな転換点はいくつかあった。

  1. SIer から事業会社への転職 → 自らが期待する技術者像への成長を支援してくれる環境に身を置くことの重要性
  2. 研鑽しあえる仲間や師事できるロールモデルの発見と対外活動 → 対内外へ認知されることの重要性、発展してより優れた技術や思想を啓蒙することの面白さ
  3. エンジニアから各層のマネジメントまで、様々な役割の経験 → エンジニアリングを軸にしながらも近接する役割を幅広く経験したことによる弾力性および希少性

これらは、私が最初のキャリアでエンジニアリングを志した時と同じように、中長期目線で計画できていたものではなく、その時々の想いを実現に向けて行動してきた結果である。

短い時間軸で高い地点を目指すのであれば相応の高さのハードルになるし、長い時間軸であれば同じ地点を目指すにも段階的に物事を進められるというのは想像に難くない。つまるところ、タイムスケールに差はあれど「現在地から目標地点までのギャップをどう埋めていくか」という話に帰結し、その時間軸が短ければ演繹的なキャリア形成に、長ければ帰納的なキャリア形成になるという話だと認識している。

たぶんこんな PDCA

その現在地からゴール地点に到達するまでの道のりは、突き詰めるとこういう PDCA になるように思う。

1. 環境を選択する

環境を選ぶということは誰しもがやっている。それは就職や転職での会社選びや自らの専門性をどこに置くかといった大きな意思決定だけでなく、会社においてはどのプロジェクトに配属されるか(あるいは自ら手を挙げるか)、はたまた副業・コミュニティなどを通じて異なる環境で活動するなど、非常に様々なものが含まれる。

自分が選んだ環境に応じて「その環境における自分への期待値」が決まる。

2. 専門性を拡張する

選んだ「環境で求められる期待値」に対して何らかの能力を発揮することが求められる。エンジニアリングを例にすると、特定領域の技術力といった専門性を始めとして、各種マネジメントを含む様々なヒューマンスキルなど、総合的な業務遂行能力が問われているはずである。

その「環境からの期待」に応えられている事実が、その「環境における評価」に他ならない。できることが多い人はより多くの期待に応えられるので評価が高い。言わずもがな組織はそうした人材を求めるので、高い期待値を設定し、できることを伸ばす・増やすことをマネジメントを通じて求める。そして、その「期待値とのギャップを埋めることが成長」である。

3. 期待に応える

自分が培った能力を以て環境からの期待に応えていく、その「期待値を超えた上積み」が「その環境における評価の向上」であり、会社であれば対価として給与が上がったり、コミュニティにおいてはより多くの認知を得る、などに繋がっていく。

重要なのは、優秀で上長から信頼されている人が更に大きな仕事を任されるように、期待に応えることで「次に選択できる環境が増える」ということだ。そうすると、より大きな「その環境における自分への期待」に向き合う機会を得られる。そのため、自分に何が期待されているのかを正確に理解すること、つまり期待値の解像度が高ければ高いほど良いのは言うまでもない。

納得できる選択をし続けるために

私は幸運なことに、ソフトウェアエンジニアとしては事業開発から組織の立ち上げを含む横断的な活動、マネジメントでもチーム・部門・経営という様々なレイヤでコミットする機会があり、幅広い経験をしてきた。しかし、前述の通り、数ヶ年のキャリアを計画してギャップを埋める努力をしてきたというよりは、その時々で課せられた期待値を理解して応える努力を繰り返してきた、その結果として今があるという方が正しい。

You can’t connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards. by Steve Jobs at 2005 Stanford Commencement Address

キャリアビジョンを否定する意図はなく、もちろん理想像を描いて逆算的に動けることも望ましいだろう。私が言いたいのは、キャリア形成が必ずしも中長期ゴールからの逆算である必要はなく、むしろ時々で納得できる選択を繰り返していくことも、選び取りたいゴールに辿り着くために重要なのではないかということだ。

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